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2004.12.07

ベルリン・フィルと子どもたち

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ベルリン・フィルと子どもたち@ユーロスペース(12月4日)

監督:トマス・グルベ/エンリケ・サンチェス・ランチ

12月4日からユーロスペースで公開されている「ベルリン・フィルと子どもたち」。これが、実に素敵な映画だ。今年、公開された映画の中で、ベストは「誰も知らない」か「エレファント」のどちらかだと思っていたけれど、もしかしたら、ナンバーワンはコレかもしれない。大げさではなくて、ホント、それくらい素敵な映画だ。映画の終盤、思わず涙が出てきそうになったんだけど、それは歓喜の涙。こんなに希望に満ちあふれている映画を見たのはホント、久しぶりだ。

「ベルリン・フィルと子どもたち」は、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者兼芸術監督に就任したサイモン・ラトルが、子どもたちにクラシックの楽しさを知ってもらおうと始めた教育プロジェクトの1つ「ダンスプロジェクト」が実現するまでの過程を撮ったドキュメンタリー。このプロジェクトに参加した子どもたちの出身はイラク、イラン、ナイジェリア…とさまざまで、年齢層も8歳から20歳と幅広い。総勢250名。で、彼らが、6週間のキビシイ練習を経て、ベルリン・アリーナでの大舞台を迎える。縁もゆかりもないバラバラの「個」が、1つのことに向かって一丸となり、何事にも代え難い貴重な体験をするという意味において、恩田陸の「夜のピクニック」と似ている部分もある。どんなことでもいいと思うのだけど、子どもから大人への過渡期にあたる時期に体験するこういう大きなイベントというのは、その後の人生において貴重な財産になる。だから、決して恵まれているとはいえない子どもたちの未来が、キラキラと明るいものに見えてきて、とてつもなくうれしくなってしまったのである。

ダンスプロジェクトに参加した子どもたちのほとんどは、もともとクラシックに縁があるような、育ちのいいお嬢さん&お坊ちゃんではない。例えば、両親が離婚したとか、心にちょっとした問題を抱えているとか、内戦で両親が殺されドイツに逃げてきたとか…。このプロジェクトに参加した多くは難民だというが、そういう政治的な背景はこの映画では一切描かれない。どこにでもいる普通の子どもたちとして、カメラは撮る。当初は練習にも身が入らず、ふざけてばかりの子どもたちもいたりする。けど、振付師のロイストン・マルドゥームの厳しくも温かい指導のもと、やがて真剣に練習に取り組むようになり、晴れの舞台を迎える。

子どもたちは、ホント、さまざまだ。このプロジェクトに対しての真剣度もさまざま。年齢も違うし、生まれ育った国、置かれている境遇も全く違う。物事の価値観も全く違う。そんなバラバラの子どもたちが1つになって、ベルリン・フィルの演奏でダンスを踊る。世界最高峰のプロと究極のシロウトによるコラボレーション。まずそこが、この映画の素晴らしいところだ。ちょっと大きなハナシになるけれど、世界もこうやってまとまっていったらいいのになぁ、と思わずにいられなくなる。

ロイストンの厳しいダンス指導のもと、子どもたちはいろいろな反応を示し、それぞれの立場で葛藤する。端から見ると小さな心の振幅かもしれないけれど、平和な日本に住む1人として見ると信じられないくらい悲惨な境遇の子どもたちもいる。そんな子どもたちが、真剣にダンスに取り組み、貴重な体験をする。で、この貴重な体験の先に見えてくるのは、絶望ではなくて希望。過去を振り返ったら、決して幸せではない子どもたちが、このプロジェクトを通じて、自分を見つめ、しっかり前を見るようになる。前半と終盤で子どもたちの目がガラリと変わるのが分かるが、それを見ていると未来は決して暗いものではないような気がしてきてうれしくなる。

もう1つ付け加えるなら、子どもたちが魅力的なのは当然として、この映画は出てくる大人たちも魅力的なのだ。ラトルとロイストンの2人が特に…。こういう大人になりたい、と真剣に思ってしまったほどだ。いや、真剣にそう思っている。例えば、ラトルのこんな言葉を聞くと、希望に満ちあふれてくる。

音楽にできるのは人々を分断するのではなく、1つにすることなんだ

私たちは今、決して楽観視することのできない分断の時代の中に生きている。しかし、そんな中でも、音楽を通じて、一体感を味わうことができる。1つになることができる。…というのを、音楽に疎い私でも感じることがある。「音楽」が持つ力というのは、私が想像している以上にずっとずっと大きいのだろう。ラトルはそれをちゃんと知っている。だからこそ、ベルリン・フィルを、お金を持っている一部の裕福な人たちだけのものではなく、みんなのものにしたいと思い、このプロジェクトを立ち上げたのだろう。パンフレットに載っているインタビューでラトルはこんな風に言っている。

ベルリン・フィルはみんなを歓迎したいんだ!

「お先、真っ暗」感のただよう昨今、久しぶりに見た希望の光がここにある。

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コメント

「ベルリン・フィルと子どもたち」、面白そうですね。
観てないから本当のところはわからないんですが、武満徹と小澤征爾の対談本「音楽」を思い出しました。
その中に確か、中国のある地域の交響楽団にブラームスの交響曲を教える話が出てくるのです。団員全員がクラシックのレコードなんて聴いたこともないような人々で、もう、誰も今まで聴いたことがないようなテンポと解釈の、すっごいブラームスを奏でてしまうんだけど、でも、音楽を演奏する喜びや驚きに満ち満ちている、とにかく形容しがたいすっごいブラームスだったみたいな話で(確か)、非常に感動したのです。。。
全然違います???(笑)
武満徹さんの本はそういう「シンプルな感動」をじんわり思い出させてくれる文章が多くて大好きなんですが、例えば、また別の本の文章で、、、
貧乏でピアノなんて買えなかったんだけど、音楽への欲求を抑えられなくて、とうとうピアノのある飲食店で働けることになり、お客がいない時間に、今まで自分の頭の中だけでずーっと作曲していた音楽を初めてピアノで弾いてみたら、頭の中で想像していた音楽とおんなじ音がしてとても感動した、
っていう話が、私は涙が出るぐらい好きなんですが、どうですか?そんな感じ?違うか?
その「音楽」という本を私は今までいろんな人にプレゼントしてきたのですが、今度、機会があったらyo-yoさんにもプレゼントします。

投稿: 京橋OLまりこ | 2004.12.08 07:04 午前

武満徹と小澤征爾の「音楽」、面白そうですね。

その本を読んだことがないので、こちらも推測になりますが、中国の交響楽団にブラームスの曲を教える話と、この映画、似ているかもしれませんね。「ベルリン・フィルと子どもたち」の場合は、音楽というよりはむしろ、ダンスを通じて、子どもたちが、映画を観ている私たちが、歓喜の体験をします。このプロジェクトに参加しているのは、ダンスにも、クラシックにも縁のない子どもばかり。そういう子どもたちが、ダンスを通じて、ベルリン・フィルと素晴らしい化学反応をするのです。

もう1つ、「誰も知らない」では不在だった大人が(映画を撮っている是枝監督の視点が大人ではありましたけど…)、この映画にはちゃんといます。ベルリン・フィルの総指揮をやっているラトルと振付師のロイストンです。この2人がとにかく素晴らしい。で、この2人がいなければ、この化学反応は起きなかったわけです。ある意味、「教育」がテーマになっている映画なのですが、ホント、大人って重要だなぁ…と思いました。大人たちの利益だけを考えた身勝手なプロジェクトだったら、絶対に失敗したと思うんですよね。

…と、あまり褒めすぎてもどうかと思いますので、このヘンにしておきますが、この映画、オススメですよ。

投稿: yo-yo | 2004.12.08 12:06 午後

あーーー、まさに!
「音楽」もテーマの1つが「教育」なんです(中国の交響楽団の話も、その流れで出てきてたはず)。なぜなら、一見まったく違う小澤征爾と武満徹の共通点は、斉藤秀雄先生という人にそれぞれ別の形で音楽を学んだところにあるからなんです。小澤征爾は自分が斉藤先生から多くを学んだように、これからは教育にも力を入れていきたいと言ってその中国の交響楽団の指導にも当たるのですが、武満徹は自分は体も弱いしそんなに長く生きられそうにないからそんな時間は無いみたい…と言っているのですよ(そしてその言葉通り、武満徹は早死にしちゃっているところがまた泣いちゃう…)。

ちなみに、その交響楽団のドキュメンタリー映像を観てものすごい感動を受け、“あること”を発足した人がこの本のあとがきを書いているところがまた泣ける。人が人に与える影響が凄まじく何十にも渦巻いているような、感動的な本です。

ついつい興奮してしまいましたが、そんなことより(笑)、「ベルリン・フィルと子供たち」観に行きますね!

投稿: 京橋OLまりこ | 2004.12.10 01:49 午前

何かに影響を受けて何かを始めるのって、すっごく素晴らしい体験ですよね。そもそも「感動」っていうのは「感じて動く」ってことですから。

「ベルリン・フィルと子どもたち」を観たら、ぜひ感想を聞かせて下さい。

投稿: yo-yo | 2004.12.10 02:15 午後

さっきここを見つけて映画の感想を読んでとても嬉しくなってしまいました。TBさせていただきました!素敵なHPですね~!時々覗かせて下さい。

投稿: tomoska | 2005.02.14 02:54 午後

tomoskaさん、トラックバック&コメント、ありがとうございました。

最近になって、いろんな人から「この映画を観たよ!」というハナシを聞いていますが、そんな声を聞いていると、なんだかまた観に行きたくなってしまいますね。「ベルリン・フィルと子どもたち」のような感動って、なかなか味わえないですから。

これからも、よろしくお願いします。

投稿: yo-yo | 2005.02.14 11:13 午後

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