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2004.11.26

ブエノスアイレス

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ブエノスアイレス@DVD(11月23日)

監督:王家衛
主演:トニー・レオン/レスリー・チャン

ラストシーンがこれほどまでに開放感にあふれている映画はあまりない。王家衛の最高傑作はやっぱり「ブエノスアイレス」だ。

王家衛の映画は1つのセリフで最初から最後まで引っ張る。「ブエノスアイレス」もそれは同じで、「やり直す」というセリフがキーワードになっている。「ブエノスアイレス」は、ファイ(トニー・レオン)とウィン(レスリー・チャン)の同性愛を描いた作品だが、ケンカしては別れ、ケンカしては別れを繰り返す堂々巡りのハナシ。何度も何度もやり直す。しかし、王家衛の映画だ。恋愛映画としてのハッピーエンドは決して用意はしない。「欲望の翼」「花様年華」「2046」と同じように、やはりすれ違いのまま終わるのである。

ファイとウィンに加え、もう1人、キーパーソンがいる。エドワード・ヤンの映画でおなじみのチャン・チェンが演じるチャン。ファイが働く厨房の後輩で、感情の起伏の激しいファイとウィンとは対照的なあっさりした役柄。旅を続けていて、資金稼ぎのために厨房で働いている。幼い頃、目が悪かったチャンは、耳が他人よりも良い。だから、声を聞くだけで相手の気持ちが分かったりする。この映画には名シーンが幾つかあるのだけど、ファイとチャンが別れるシーンは特にいい。目より耳を大切にするチャンは記念撮影をしない代わりに、テープレコーダーをファイに差し出す。ファイの声を録音するのだ。が、ファイは声にならず、思わず涙を流す。テープレコーダーに声を録音するということは、ブエノスアイレスでの思い出を捨てるための「儀式」でもあるのだ。このシーンを見ると、王家衛がトニー・レオンを使い続ける理由が分かる。

もう2つほど、好きなシーンについて。

映画の中盤、ファイとチャンが勤める厨房の面々でサッカーをするシーンがある。この時の強烈な逆光が印象的だ。まるで新しい何かの始まりを暗示しているかのようなシーン。つまりは、ファイとウィンとの関係の終わりを告げているシーンでもある。かといって、重々しくはなく、そこにあるのは爽快感。明るい明日を予感させるのだ。

もう1つ。アルゼンチンの最南端のウシュワイアで、チャンが遠くを見るシーン。その先には南極しかない。つまりは、地の果て。旅人なら誰もがあこがれるような場所である。そこで、録音したファイの声を「儀式」として捨てる。「花様年華」のラストシーンを彷彿とさせる印象的なシーンだ。

「ブエノスアイレス」というと、強烈な色彩の映画というイメージがあるが、この映画の前半はモノクロだ。ブエノスアイレスは香港から見ると地球の裏側。つまり、「ブエノスアイレス」は最も離れた異国でのハナシというわけだ。映画の終盤で、その異国感がやたらと強調される。イグアスの滝が映り、最南端のウシュワイアが映り…。そして、ファイが故郷を思い、香港の高速道路が、天地逆の映像として映し出される。ウィンとの関係が完全に終わり、ファイの気持ちが異国のアルゼンチンから、故郷の香港へと変わる。

そして、ファイは父と「やり直す」ために香港に戻る。その途中で、チャンの実家のある台北に寄るのだけど、そこで映画の張りつめていた空気が一気にゆるむのだ。長い間留守にしていた家に帰った時のような安堵感と似た感じといえば分かるだろうか。この映画、とにかくこの感じが、いいのだ! 冒頭で書いた開放感とはこのことだ。で、最後の最後で「HAPPY TOGETHER」が流れ、モノレール(電車?)の早送りが映し出される。幾つかの駅を経て、ある駅に到着して映画は終わる。開放感のピークでスパッと終わるのである。

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